- IT業界の「やめとけ」の正体は多重下請け構造とSES契約にある
- 情報通信業の離職率は10.2%で全産業平均14.2%より低い
- 人材不足を背景にM&A・業界再編が進み企業間格差が拡大している
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IT業界がやめとけと言われる理由

「IT業界 やめとけ」と検索する人には、現役のエンジニアだけでなく、未経験からの転職希望者や営業職・事務職の人も含まれます。IT業界はシステム開発・SES・通信・Web制作など幅広い業種の総称であり、特定の職種の悩みというより、業界の構造そのものに不満の声が集まりやすい分野です。
「ITエンジニアはやめとけ」「システムエンジニアはやめとけ」といった記事の多くは、個々の職種のきつさに焦点を当てています。この記事では、職種ではなく業界そのものの仕組みに絞って、何が「やめとけ」の正体なのかを整理します。
検索結果でよく挙がる理由は大きく4つあります。多重下請け構造、SESによる客先常駐、長時間労働、未経験採用の急増です。以下で、それぞれの実態を順番に見ていきます。
多重下請け構造とITゼネコン化
IT業界では、発注元の企業から元請けのSIerへ仕事が流れ、さらに二次請け・三次請けへと仕事が分配される構造が一般的です。建設業界の重層下請け構造になぞらえて「ITゼネコン」と呼ばれることもあります。
この構造自体は、企業が自社で全ての人材を抱えずにプロジェクト単位で柔軟に人員を調整できるという合理性があるため存在しています。問題視されるのは、階層が深くなるほど中間マージンが積み重なり、現場で手を動かすエンジニアに届く報酬が目減りしやすいという点です。
また、階層が深い案件ほど、発注元が求める仕様の意図が現場まで正確に伝わりにくくなる傾向もあります。間に入る企業が増えるたびに、要件の解釈が少しずつずれていき、手戻りや仕様変更が発生しやすくなることも、下流工程のエンジニアが負担を感じやすい一因です。
株式会社CAREER FOCUS/東田尚起多重下請け自体が悪いわけではなく、自社がどの階層に位置しているかを把握することが大切です。
SESと客先常駐という働き方
IT業界でやめとけの象徴としてよく挙がるのがSES(システムエンジニアリングサービス)です。SESは準委任契約に基づき、技術者を客先に常駐させ、稼働時間に応じて対価を得る契約形態です。
客先常駐では、自社の同僚と離れて働くため帰属意識を持ちにくく、案件が切り替わるたびに勤務先や人間関係がリセットされる点が負担になりやすいとされています。一方で、様々な現場を経験できる点をメリットとして捉えるエンジニアもいます。
長時間労働と納期優先の文化
システム開発はリリース日が固定されていることが多く、納期を優先する文化が根強く残っています。仕様変更や人員不足が重なると、下流工程を担当するエンジニアにしわ寄せが来やすく、長時間労働につながるケースがあるとされています。
特にリリース直前のテスト工程では、不具合の修正と並行してスケジュールの遅延を取り戻す作業が重なりやすく、短期間に負荷が集中しやすい時期とされています。繁忙期と閑散期の差が大きいことも、IT業界の働き方の特徴の一つです。近年は働き方改革の影響で残業時間の管理が厳格化している企業も増えていますが、企業ごとの取り組み状況には差があります。
未経験採用の増加による玉石混交化
人材不足を背景に、IT業界では未経験者歓迎の求人が増えています。教育体制が整った企業であればキャリアの入り口として機能しますが、研修を行わずいきなり現場に配属する企業も存在し、就業環境の良し悪しが企業によって大きく分かれる状態になっています。
未経験採用が増えたこと自体は、IT業界への入り口を広げるという点でプラスの面もあります。問題は、採用基準や育成方針を明確に持たないまま人数だけを確保しようとする企業が一定数存在し、結果として早期離職につながってしまう点です。
「IT業界」とひとくくりにせず、階層・契約形態・教育体制の3点で個々の企業を見極めることが、入社後のミスマッチを防ぐ近道になります。
IT業界の多重下請け構造とSESの実態


ここでは、IT業界の象徴的な慣行である多重下請け構造とSES契約の仕組みを、もう一段掘り下げて整理します。
元請けと下請けの契約形態と単価の違い
元請け企業は発注元と直接契約し、要件定義や基本設計といった上流工程を担うことが多く、報酬単価も高めに設定される傾向があります。二次請け以降は詳細設計・製造・テストといった下流工程を担うことが多く、階層が下がるほど単価も下がりやすい構造になっています。
なお、プロジェクトによって同じ企業が元請けになることも、下請けになることもあり、階層は固定的なものではありません。
階層が深くなるほど現場の取り分が減る理由
多重下請け構造では、各階層の企業が一定のマージンを得て次の階層へ発注します。このため、階層が深くなるほど現場エンジニアの手元に届く報酬の割合が小さくなりやすいという指摘があります。ただし、これは企業の営業努力や契約形態によっても差が出るため、一律に決まるものではありません。



同じ案件でも、所属企業がどの階層にいるかで待遇が変わることがあります。転職先を選ぶ際は、発注元からの階層を確認する価値があります。
SESという契約形態が存在する業界側の事情
SESが広く使われる背景には、企業側が開発需要の波に合わせて人員を柔軟に調整したいという事情があります。自社で正社員を増やすと、案件が途切れたときの固定費負担が重くなるため、SES企業に委託することで負担を抑えている面があります。
一方で、エンジニア側から見ると、案件が途切れると収入が不安定になったり、スキルが特定の作業に偏ったりする懸念があるとされています。案件のアサインを所属企業の営業担当が決めるため、本人の希望と実際に配属される現場が一致しないこともあります。
こうした構造を踏まえると、SES企業を選ぶ際は、案件選定にどこまで本人の希望を反映してもらえるか、契約更新のタイミングでキャリア面談が行われるかといった運用面の確認が、待遇面以上に重要になります。入社前の面接で、過去の案件変更時にどのような調整を行ったか、具体例を聞いてみるのも有効です。
客先常駐で働く場合、実際に指示を受ける現場と、給与を支払う所属企業が異なります。面接では常駐先の雰囲気だけでなく、所属企業の評価制度やキャリアパスも必ず確認しましょう。
IT業界の離職率と将来性の実態


「やめとけ」と言われる業界は離職率が高いイメージを持たれがちですが、実際の公的統計では必ずしもそうとは限りません。厚生労働省の調査をもとに、数字で実態を確認します。
厚生労働省のデータで見るIT業界の離職率
厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」によると、情報通信業の離職率は10.2%で、産業計の14.2%を下回っています。入職率も11.2%と、出入りが特別多い業界というわけではありません。
| 区分 | 入職率 | 離職率 |
|---|---|---|
| 情報通信業 | 11.2% | 10.2% |
| 産業計(全産業平均) | 14.8% | 14.2% |
出典 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」
離職率が低くても不満が募りやすい理由
統計上の離職率が低いにもかかわらず「やめとけ」という評判が広がる背景には、転職のしやすさがあると考えられます。IT業界は職種に対する需要が高く、不満があってもすぐに同業他社へ転職できるため、我慢して働き続けるより先に転職市場に出る人が多いことが、ネット上の口コミの多さにつながっている可能性があります。



離職率の数字だけを見て安心するのではなく、口コミサイトや面接での質問で、現場の実感値も合わせて確認することをおすすめします。
IT業界の将来性とDX人材不足
IPAが公表した調査では、DXを推進する人材が「量として不足している」と回答した日本企業が49.6%に上り、前年度から大きく増加しました。人材不足は業界全体の課題である一方、エンジニアにとっては需要が底堅いことの裏返しでもあります。
また、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」では、老朽化したシステムを放置した場合、2025年以降に最大で年間12兆円規模の経済損失が生じる可能性が指摘されました。この指摘を受け、既存システムの刷新需要は今後も続くと見込まれています。
出典 IPA「DX白書2023」関連資料、カオナビ「2025年の崖」解説記事
離職率の低さは「定着しやすい」とも「転職しづらい」とも解釈できます。応募前に、具体的な勤続年数の分布まで聞いてみると実態が見えやすくなります。
IT業界で進むM&Aと業界再編の動き


IT業界では、他の職種を解説した「やめとけ」系記事ではあまり触れられないM&Aによる業界再編が進んでいます。これは個々のエンジニアの所属企業にも影響する、業界構造ならではの動きです。
中小SES・SIerの買収が増えている背景
日本M&Aセンターのコラムによると、IT・ソフトウェア業界はM&A件数が業種別で最も多い年があるなど、継続的にM&Aが活発な業界とされています。背景にはエンジニア不足があり、人材ごと確保できるM&Aは企業にとって採用コストを抑えながら組織を拡大する手段になっています。
また、中小のSES企業やSIerでは、経営者の高齢化による後継者不在を理由に、事業譲渡を選ぶケースも増えています。
出典 日本M&Aセンター「IT業界のM&A動向」
業界再編がエンジニアのキャリアに与える影響
所属企業が買収された場合、プロジェクトの発注元や契約条件が変わる可能性があります。買収によって自社開発や上流工程への参画機会が増えることもあれば、逆に下請け階層に組み込まれる形になることもあり、影響は一律ではありません。
買収によって評価制度や給与テーブルが統合され、待遇が改善するケースもあれば、買収元の方針に合わせて配属や勤務地が変わるケースもあります。在職中に資本関係の変化があった場合は、早めに人事部門や上司に今後の方針を確認しておくと安心です。転職活動中であれば、面接で直近の資本提携やグループ再編の予定について質問しても失礼にはあたりません。



転職先を選ぶときは、直近の資本関係の変化や、親会社とのグループ内取引の比率も調べておくと、入社後の方向性を予測しやすくなります。
二極化するIT業界で生き残る企業の特徴
- 発注元と直接契約し、自社サービスや自社プロダクトを持っている
- 上流工程の経験を積める教育体制が整っている
- 特定の技術領域や業界知識に強みを持ち、価格競争に巻き込まれにくい
人月単価のビジネスから脱却し、課題解決型の付加価値を提供できる企業と、下請け業務に依存し続ける企業との間で、今後さらに二極化が進むと見られています。転職活動では、応募先企業がこの二極化の中でどちら側に向かおうとしているのか、中期的な事業方針も合わせて確認しておくと安心です。
応募先企業の親会社・グループ会社の構成は、有価証券報告書や企業データベースで確認できます。買収の履歴がある企業は、直近の事業方針の変化も合わせてチェックしましょう。
IT業界が向いていない人・向いている人の特徴
ここまで見てきた業界構造を踏まえると、IT業界への向き不向きは、個人の性格だけでなく「どの階層の企業で働くか」によっても変わってきます。同じ「IT業界」という括りでも、自社サービスを開発する企業と、下請け中心の企業とでは、求められる働き方が大きく異なります。
IT業界に向いていない人の特徴
次のような傾向がある人は、下請け階層の企業やSES契約での就業においてミスマッチを感じやすいとされています。
- 決まったチームで長期的に働きたい気持ちが強い
- 仕様変更や急な納期調整に強いストレスを感じる
- 指示された作業をこなすより自分で企画したい志向が強い
IT業界に向いている人の特徴
一方で、次のような人はIT業界の構造的な特徴をむしろ強みに変えやすい傾向があります。
- 新しい技術や環境の変化を楽しめる
- 案件ごとに異なる現場での人間関係構築が苦にならない
- 将来的に独立や自社開発企業への転職を見据えてスキルを積みたい
| タイプ | 向いている企業の階層 |
|---|---|
| 安定志向 | 自社サービスを持つ元請け企業 |
| 挑戦志向 | 成長中のスタートアップ・自社開発企業 |
| 経験重視 | 幅広い現場を経験できるSES企業(教育体制のある企業に限る) |



向き不向きは固定的なものではありません。下流工程からキャリアをスタートし、経験を積んで上流工程に移っていくエンジニアも数多くいます。最初の配属先だけで業界全体を判断せず、数年単位でキャリアの変化を見ていくことをおすすめします。
自分の志向だけでなく、実際に働く社員の声や離職理由を転職エージェント経由で確認すると、より客観的な判断材料になります。
IT業界で後悔しないための対策と代替キャリア


IT業界への就職・転職を検討する際は、業界全体を避けるのではなく、企業ごとの違いを見極める視点を持つことが重要です。
入社前に確認すべき業界構造の見極め方
- 発注元からの階層(何次請けが中心か)
- 自社サービス・自社プロダクトの有無
- 平均勤続年数や離職率の開示状況
- 客先常駐の比率と、常駐先の決め方
- 未経験者向けの研修制度の有無と内容
これらは求人票だけでは分かりにくいため、面接や転職エージェントへのヒアリングで直接確認することをおすすめします。転職エージェントは企業ごとの内部事情や過去の求職者からのフィードバックを持っていることが多く、個人で調べるよりも精度の高い情報を得やすい手段です。
下請けの立場から抜け出すキャリア戦略
下流工程からキャリアをスタートした場合でも、要件定義や基本設計といった上流工程の経験を意識的に積むことで、元請け企業や自社開発企業への転職の道が開けます。資格取得よりも、実務でどこまで裁量のある仕事を任されたかという実績が評価されやすい業界です。
具体的には、担当した機能の設計意図を自分の言葉で説明できるようにしておく、テスト工程であっても不具合の原因分析まで踏み込んで担当するなど、与えられた範囲より一歩踏み込んだ動き方を意識すると、転職活動で語れる実績が増えていきます。小さな工夫の積み重ねが、数年後の転職活動で語れる実績の差になって現れます。



上流工程の経験がまだない場合は、現職で小さな改善提案を担当するなど、裁量の幅を広げる動き方から始めるのも一つの方法です。
IT業界以外の選択肢も検討する
IT業界で培ったスキルは、事業会社の社内SEや、ITコンサルティング、SaaS企業のカスタマーサクセスなど、業界の外にも活かせる道があります。多重下請け構造から距離を置きたい場合は、こうした職種への転換も選択肢になります。
「人間関係が合わなかった」ではなく「下請け階層に偏り上流工程の経験が積めなかった」のように、業界構造を踏まえた転職理由を伝えると、面接官に納得感を持たれやすくなります。
IT業界に関するよくある質問
IT業界はやめとけと言われるが実際に離職率は高いのか
厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」によると、情報通信業の離職率は10.2%で、産業計の14.2%より低い水準です。統計上は極端に高い離職率ではありませんが、転職のしやすさから不満を感じた人が比較的早く転職する傾向があり、これが「やめとけ」という評判の広がりにつながっていると考えられます。
なお、この数値は情報通信業全体の平均であり、下請け階層や客先常駐の比率が高い企業に限定した統計ではない点には注意が必要です。企業ごとの離職率は、求人票や企業の採用ページ、口コミサイトで個別に確認することをおすすめします。
IT業界未経験でも転職できるのか
人材不足を背景に、未経験者歓迎の求人は増えています。ただし、研修体制が整っていない企業に入ると、十分な教育を受けないまま現場に配属される懸念があります。未経験で応募する場合は、研修期間の長さや内容、配属後のフォロー体制を必ず確認しましょう。
面接の段階で、入社後の最初の数か月でどのような研修カリキュラムが用意されているか、質問してみるのも有効です。具体的なカリキュラム名や期間をすぐに答えられる企業は、教育体制が整っている可能性が高いといえます。逆に「現場で覚えてもらう」としか答えられない企業は、配属後のフォロー体制が薄い可能性があるため注意が必要です。
SES企業に入るのはやめとけと言われるのはなぜか
SES企業は客先常駐が基本のため、帰属意識を持ちにくいことや、案件によって現場環境が変わりやすいことが理由として挙げられます。一方で、幅広い現場を経験できる点や、教育体制の整った企業であれば未経験からでも段階的にスキルを積める点はメリットです。企業ごとの教育制度や案件選定の裁量を確認した上で判断することが重要です。
IT業界でホワイトな企業を見分ける方法は
発注元からの階層が浅いこと、自社サービスや自社プロダクトを持っていること、平均勤続年数や離職率を開示していること、客先常駐の場合は常駐先を本人の希望に合わせて調整する仕組みがあることが、見分けるポイントになります。口コミサイトの評価だけでなく、面接で具体的な数字を質問してみるのも有効です。
加えて、面接官が自社の強みを「大手案件に多数参画している」といった実績ではなく、「どの工程をどこまで自社で担っているか」という形で具体的に説明できるかどうかも、企業の位置づけを見極める手がかりになります。
企業の公式情報、口コミサイト、転職エージェントが持つ非公開の評判情報の3つを照らし合わせると、実態に近い判断ができます。
まとめ
IT業界がやめとけと言われる背景には、多重下請け構造、SESによる客先常駐、長時間労働になりやすい文化、未経験採用の急増による教育体制の差という、業界構造に根ざした理由があります。
一方で、厚生労働省の統計では情報通信業の離職率は10.2%と全産業平均より低く、DX人材不足を背景に業界全体の需要は底堅く推移しています。M&Aによる業界再編も進んでおり、所属企業の立ち位置によって働きやすさは大きく変わります。



IT業界は一括りにできない業界です。企業がどの階層にいて、どんな教育体制を持っているかを見極めれば、向いている人にとっては今も有望な選択肢になり得ます。
業界の構造を理解した上で、自分に合った階層・契約形態の企業を見極めることが、後悔しない選択につながります。すでにIT業界で働いている人も、これから入ろうとしている人も、「やめとけ」という言葉を鵜呑みにするのではなく、自分が働く企業や検討している企業がどの階層にいるのかを一度整理してみることから始めてみてください。
出典・参考情報
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FOCUS AGENT:東田 尚起


株式会社リクルートにてHR領域に従事。
求人広告営業(indeed/リクナビnext)をメインに、転職エージェントとしても従事。
自ら立ち上げた就職系メディアの事業売却を経験し、転職支援と日系企業を中心に複数社のRPO業務も担う。









